Wi-Fiが繋がらない?その時、空中で何が起きているのか。パケットの「挨拶」から紐解くトラブルシューティング入門
「Wi-Fiの設定は合っているはずなのに、なぜか繋がらない」「特定の端末だけ異常に遅い」。エンジニアとして現場に出ると、こうした「見えない壁」にぶつかることは一度や二度ではありませんよね。
Wi-Fiは魔法ではありません。すべては、目に見えない電波の上を流れる「パケット」という郵便物によって成り立っています。今日は、Wi-Fiのトラブルシューティングの第一歩として、デバイスがアクセスポイント(AP)を見つけ、握手を交わすまでの「挨拶の儀式」を、身近な例えを交えて紐解いていきましょう。
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1. ビーコンフレーム:APが配る「チラシ」
Wi-Fiルーター(AP)は、常に自分の存在を周囲に知らせるために「ビーコン(Beacon)」という名のチラシを撒いています。これは、いわば街角で配られる「当店はここで営業しています!Wi-Fi 6対応、最高速度はこれくらいですよ!」という宣伝チラシです。
このビーコンの中には、重要な情報が詰まっています。
- SSID: お店の名前(ネットワーク名)
- BSSID: お店の住所(MACアドレス)
- サポートレート: 「うちは最新のWi-Fi 7まで対応してますよ!」というスペックの主張
もし、このチラシが古い規格の端末にしか対応していない設定(例:Wi-Fi 4のみ許可)になっていたら、最新のスマホは「あ、この店は自分向けじゃないな」と判断して無視してしまいます。これが「繋がらない」原因の一つです。
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2. プローブ要求と応答:デバイスとAPの「恋の駆け引き」
スマホがWi-Fiを探すとき、あるいは隠されたSSIDに接続するとき、デバイスは「プローブ要求(Probe Request)」という手紙を空中に放ちます。「誰か、〇〇という名前のネットワークを持っていませんか?」という問いかけですね。
それに対して、APは「プローブ応答(Probe Response)」で返事をします。「はい、ここにいますよ!条件はこうです!」
このやり取りが成立して初めて、認証と接続のフェーズに進みます。もし、ここで応答が返ってこない場合、以下の泥臭い原因が考えられます。
1. チャンネルの不一致: デバイスが探している周波数帯(2.4GHz/5GHz/6GHz)にAPがいない。
2. セキュリティ設定の不一致: WPA3を使いたいスマホに対し、APが古いWPA2(AES/TKIP)のみで固定されている。
3. 距離と障害物: ビーコンは届くけれど、プローブ要求という「小さな声」がノイズにかき消されている。
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3. 実践:現場で「会話」を覗き見る(Wiresharkの活用)
理論だけでなく、実際にパケットがどう飛んでいるかを確認するのはエンジニアの嗜みです。Wiresharkを使って、空中のトラフィックをキャプチャしてみましょう。
フィルター欄に以下のコマンドを入力すると、挨拶のやり取りだけを抽出できます。
# ビーコンとプローブ要求・応答のみを表示するフィルター
wlan.fc.type_subtype == 0x08 || wlan.fc.type_subtype == 0x04 || wlan.fc.type_subtype == 0x05
この画面を開くと、まるで街中の会話が可視化されたような気分になります。「あ、このスマホはあちこちにProbe Requestを送って探しているんだな」と分かると、トラブルの原因が「端末側」にあるのか「AP側」にあるのか、切り分けが一瞬でできるようになります。
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4. トラブルシューティングの勘所:チェックリスト
実際にトラブルに直面した際は、以下の順序で確認してみてください。
- RSSI(信号強度)は十分か?:
-65dBm以上あれば良好。-80dBmを下回ると、プローブ要求が届かず接続は不安定になります。 - サポートレートの確認: ビーコン内で通知されている「最低基本レート」が高すぎると、遠くの端末は接続を切られます。
- SSIDのステルス設定: 意図せずSSIDを隠していませんか?隠しSSIDは接続のタイムアウトを招きやすいです。
CLIでの確認例(Linux端末の場合)
iwコマンドを使って、現在どのレートで通信しようとしているかを確認するのも定石です。
# 現在接続しているインターフェースの状況を確認
iw dev wlan0 station dump
# 出力例の解説
# tx bitrate: 1200.0 MBit/s VHT-MCS 9 ...
# ↑ ここで現在の通信規格(Wi-Fi 5/6等)と速度が分かります。
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最後に:ネットワークは「人間関係」と同じ
Wi-Fiのトラブルは、往々にして「お互いの条件が合わない」ことから発生します。「繋がって当たり前」と思わず、デバイスとAPが必死に挨拶を交わしている様子を想像してみてください。
「おーい、誰かいるー?」「はい、ここにいますよ!私はWi-Fi 6です!」「おっ、じゃあ接続するね!」
このやり取りのどこかで言葉(プロトコルやレート)が通じ合っていないだけ。そう思えば、少しだけトラブルシューティングが楽しくなりませんか?
次は、認証フェーズ(WPA3のハンドシェイクなど)の深い部分についてお話しできればと思います。皆さんのネットワーク構築ライフが、より快適でトラブルの少ないものになりますように!
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