【入門編】 ICMPベースのtraceroute(Windows tracert)の仕様と違い – トラブルシューティング&ネットワーク運用監視実践ガイド

ネットワーク運用の現場に身を置いていると、夜中に突然「社内システムが重い」「特定の拠点からクラウドに繋がらない」といったアラートが飛び込んでくることがあります。そんなとき、私たちNOC(ネットワークオペレーションセンター)のエンジニアが真っ先に手に取る魔法の杖が、宛先までの経路を暴き出す traceroute(Windowsでは tracert)です。

しかし、ここで長年インフラを触ってきたエンジニアほど、ふと疑問に思うことがあります。
「あれ? Linuxの traceroute と、Windowsの tracert って、やってることは同じなのに、どうしてファイアウォールの向こう側に対する挙動がこうも違うんだろう?」と。

今回は、この謎を解き明かしながら、ICMPベースのtracerouteが持つ独特の仕様と、現場で役立つ実践的なトラブルシューティングの世界へ皆さんをご案内します。難しい専門用語はできるだけ噛み砕いてお話ししますので、一歩ずつリラックスして理解していきましょう!

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1. ネットワークの「郵便配達」でイメージするtracerouteの基本

まずは、traceroute がやっていることを身近な例えで考えてみましょう。

あなたが遠く離れた友人に手紙を送るとします。手紙は直接友人のポストに届くわけではなく、地元の郵便局から中継局、相手の街の郵便局へと、いくつかの「中継地点(ルーター)」を経由して運ばれますよね。

もし、「この手紙が今、どこを通って届いたのか」を調べたいとしましょう。
標準的な traceroute(Linuxなどで使われる方式)のやり方は、こんな感じです。

1. 「寿命(TTL:Time-to-Live)」が「1」のスタンプを押した手紙を出す

  • この手紙は、最初の中継地点(ルーター)に届いた瞬間に「寿命切れ」になってしまいます。

2. 最初のルーターが「寿命切れです!」と差出人に教えてくれる

  • これで「最初のルーターがどこにあるか」が分かります。

3. 次は「寿命2」のスタンプを押して手紙を出す

  • 2番目の中継地点で寿命切れになるため、2番目のルーターの場所が分かります。

4. これを繰り返して、最終的な宛先までたどり着く。

これが traceroute の基本的な仕組みです。途中のルーターに「ちょっとお邪魔します、あなたの住所を教えてください」と手紙を送りつけて、その返事から経路をマッピングしていくわけですね。

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2. Windowsの tracert が持つ「ちょっとしたこだわり」

ここで今回の主役であるWindowsの tracert の登場です。
実は、一般的な traceroute とWindowsの tracert には、中継地点に投げる「手紙の種類」に大きな違いがあります。

  • 一般的な traceroute(LinuxやmacOSなど)のやり方
  • 最初は UDPパケット(あるいはTCPパケット)という、普段はアプリが通信に使うような形式のデータを使って、わざとポート番号を外しながら送ります。
  • Windowsの tracert のやり方
  • 最初から最後まで一貫して ICMP Echo Request(いわゆる ping のお友達)を使います。

「あれ、ping と同じなら分かりやすくていいじゃないか」と思いますよね。確かに仕組み自体はシンプルで直感的です。しかし、これが現場のネットワーク運用では「諸刃の剣」になることがあるのです。

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3. なぜファイアウォールで挙動が変わるのか?

実際のデータセンターや企業ネットワークには、不正なアクセスを防ぐための「ファイアウォール(警備員)」が必ずと言っていいほど立ち塞がっています。

ここで、警備員(ファイアウォール)の気持ちになって考えてみましょう。

一般的な traceroute(UDP方式)の場合

ランダムなポート番号宛てのUDPパケットが飛んできたとき、警備員やルーターは「おっと、このポート番号宛てのサービスは動いていないぞ。送信元に『そんなポートないよ(ICMP Port Unreachable)』と教えてあげよう」と親切に返事をします。
この返事こそが、私たちが経路を特定するための重要な手がかりになります。

Windowsの tracert(ICMP方式)の場合

Windowsの tracert は、中継地点に対して ping(ICMP Echo Request)を投げ続けます。
しかし、世の中の多くのセキュリティポリシーでは、「インターネット側から社内ネットワーク機器への ping はすべて無視(ドロップ)する」という設定がされています。社内ルーターがセキュリティのために ping に応答しないようにしているわけです。

結果どうなるか?
Windowsの tracert を実行すると、途中のルーターまでは寿命切れの通知が返ってくるので綺麗に表示されるのに、セキュリティが厳重なルーターや宛先のサーバーに近づいた瞬間、突然画面に * * *(タイムアウト)が並び続けるという現象が起きます。

「あれ? サーバーが落ちているのかな?」と焦ってしまう瞬間ですが、実はルーターやサーバーが単に「Windowsからの ping(ICMP)には返事をしない」と設定されているだけ、というケースが現場では非常によくあるのです。この違いを知っているだけで、障害切り分けのときの無駄な焦りがスッと消えていきますよね。

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4. 実務で役立つ! コマンドの実行例とポイント

それでは、実際にWindows環境やLinux環境でどのようにこれらを使い分けるか、実用的なコマンド例を見ていきましょう。

Windowsでの tracert 実行例

WindowsのコマンドプロンプトやPowerShellを開き、次のように入力します。

C:\Users\NOC-Engineer> tracert -d 8.8.8.8

# 【解説】
# -d オプションをつけることで、IPアドレスからホスト名への逆引き名前解決をスキップします。
# これにより、DNSの応答待ちでコマンドがモタつくのを防ぎ、現場での迅速な調査が可能になります。

Linuxでの traceroute 実行例(ICMPモードの強制)

もしLinux環境でWindowsの tracert と同じ挙動(ICMPを使った経路探索)を試したい場合は、 -I オプションを使用します。

$ traceroute -I 8.8.8.8

# 【解説】
# デフォルトではUDPを使うLinuxのtracerouteですが、-I オプションを指定することで
# ICMP ECHO(pingと同じパケット)を用いた経路探索に切り替えることができます。
# ファイアウォールの通過性を比較したいときに非常に便利なテクニックです。

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5. まとめ:現場のエンジニアとしての心構え

今回は、Windows固有の tracert が持つICMPベースの仕様と、ファイアウォール通過時の挙動の違いについてお話ししました。

  • 一般的な traceroute はUDPなどを使い、ポート不達の通知を頼りに経路を探る。
  • Windowsの tracert はICMP Echo Requestを使い、より ping に近い挙動をする。
  • セキュリティ設定(ファイアウォール)によっては、Windowsの tracert の方が途中でプツッと応答が途絶えやすい。

ネットワークの世界では、見えているパケットの形が少し違うだけで、セキュリティ機器の反応がガラリと変わり、トラブルシューティングの結論が180度変わることが多々あります。「なぜこのツールはこの動きをするのか?」という背後にあるストーリーを少しだけ想像できるようになると、ネットワーク技術はもっと楽しく、深みのあるものになりますよ。

日々の運用監視やトラブル対応、本当にお疲れ様です。次に * が並んだ画面に直面したときは、「おっ、ここは厳重な警備員が立ち塞がっているな」と、ぜひニヤリとしながらパケットの旅路を想像してみてくださいね。

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